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2009-05-31

いのちのパレード 恩田陸

現われては消えていく、幻想の欠片。

恩田氏の、無国籍で不思議な短編集を作りたいという思いから生まれた、「幻想と怪奇」に満ちた短編集。
翻訳モノはあまり読まないのですが、昔読んだことのあるロアルド・ダールの『あなたに似た人』を
思い出しました。
全体としては正直チト物足りなかったです…。玉石混淆。
しかしホラーからファンタジー、SFまで、恩田氏の引出しの多さには脱帽。
恩田陸が次々と見せる幻想を、走馬灯を眺めるように頭を空っぽにして浸る、というのが良いと思います。


『蝶遣いと春、そして夏』
「春は死者の季節である」
死者を黄泉の国へと送る“蝶遣い”の春と夏。
ひらひらと空に舞う蝶。風にあおられる吹き流し。静謐に、時には猛々しく咲き誇る死者の花。
美しくも、もの哀しいイメージに満ちたファンタジックな作品です。

『かたつむり注意報』
「彼らは、ひっそりと沼地からやってきます」
一人の作家の足跡を追って、ある村を訪れた男。その夜、村に“かたつむり注意報”が発令されて…。
“かたつむり注意報”。
このほのぼのとした響きから、童話のような明るいファンタジーかと思いましたが、さにあらず。
その昔、村を守ったというかたつむりたちのエピソードには荘厳な美しささえ感じられます。

『あなたの善良なる教え子より』
「これは罪でしょうか」「それとも、時と場所による真実の善なのでしょうか」
「それを決めるのは誰なのでしょうか」
“真実の善を為す”ために、人を殺め続けた男からの手紙。
一人の人間が他人を断罪することなどできるのか。私刑の是非を考えさせられます。
壮絶な幼少期を送ったが故に、この歪んだ考えに取りつかれてしまった彼が哀しくもあり、
この手紙を受け取った“先生”の葛藤と衝撃を思うと、恐ろしくもあります。

(他12篇)


いのちのパレードいのちのパレード
(2007/12/14)
恩田 陸

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2009-05-26

トリツカレ男 いしいしんじ

恋にトリツカレた男の、まっすぐな愛。

オペラに三段跳び、サングラス収集に昆虫採集。あらゆることに“トリツカレ”てしまう男・ジュゼッペが、
一人の女の子に恋をした!でも、彼女の笑顔にはどこか陰りがあって…。

久しぶりに再読しましたが、やっぱりグッときましたー。
恋愛小説をほとんど読まないMの、数少ないお気に入り恋愛小説のひとつなのです。
今まで“トリツカレ”きた趣味・特技を活かして、大好きなペチカの笑顔を取り戻すために奮闘する
ジュゼッペがチャーミングです。

しかしある日ジュゼッペは知ってしまいます。ペチカの胸の奥にある、本当の哀しみの理由を。
そして、それを知った彼の決断とは…。
好きな人のために何かをする、ってことはとても素敵なことですが、やっぱりそれは見返りを求めてしまう
ことだと思うのです。喜ぶ顔、とかありがとう、という言葉とか。無償の愛ってなかなか難しい。

ジュゼッペは彼女のために、自分の存在さえも消そうとします。
彼女が本当の笑顔を取り戻せるなら、その笑顔が自分に向けられなくてもかまわないと。
彼女を救うことにトリツカレるあまり、顔や体型、声、頭の中までもがジュゼッペのものではなくなっていく
のに、それでも彼の心の中にはペチカの笑顔を取り戻せた喜びしかないのです。
まっすぐで濁りのないジュゼッペの想いがまぶしく、切ない。

「きみにほんとの笑顔がもどるんだ。
よかったな、ペチカ……!」

そして、その透き通った想いはきちんとペチカに届きます。
大切な人を失い、冷たい氷の上に立ち竦んだまま動けなかった彼女は、しっかりと過去を受け止め、
再び歩き出す勇気をジュゼッペからもらったのでした。

「氷の上のわたしたちはいつか必ず転ぶ」
「そうして転ぶことは決してむだなことじゃない」

じわっと心が温まる一冊です。


トリツカレ男 (新潮文庫)トリツカレ男 (新潮文庫)
(2006/03)
いしい しんじ

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2009-05-16

【映画】ミルク

映画の感想をまたひとつ。
アメリカで初めてゲイであることを公表して公職に就いたハーヴィ.ミルク。
セクシャルマイノリティをはじめ黒人、女性、高齢者など、あらゆるマイノリティの人権を訴えた彼の活動を
描いた映画です。

ミルクのことは、今回初めて知ったのですが…まず、30年前のアメリカの、セクシャルマイノリティに対する
差別・偏見の凄さに驚きました。
もちろん現代でも、そして日本でも全く差別・偏見がないわけではないけど、バーにいるだけで逮捕されたり、
夜道で襲われたり、仕事をクビにされるってことはないですよね?
そんな中で、堂々とゲイであることをカムアウトし、自分たちの権利を主張した彼の行動力には
頭が下がります。

自分は間違っているのかもしれない、病気なのかもしれないという悩み。
どこにも居場所のない不安。
受け入れてもらえないというあきらめ。
常にそんな思いに苛まれていたゲイの人たちに、ミルクは希望を与えたのですね。
彼は遺言として、テープレコーダーにこんな言葉を吹き込んでいます。

「希望だけでは生きて行けないことはわかっているが、希望がなければ生きていることの価値がないんだ」

ラストに、ミルクをサポートしていた登場人物たちの“その後”が紹介されるんですが、
私はなぜかここに一番グッときました。
彼が起こしたムーブメントは、しっかりと受け継がれていたのですねぇ。

一方で、やや表層的に感じた部分もあり…この内容を2時間にまとめるのはチト難しいのでは、と思いました。
彼がゲイ解放運動に身を投じることになったいきさつや、ゲイ以外のマイノリティからも支持された理由が良く分からず、
何だか唐突に感じてしまいました。

しかし、ショーン・ペンの演技はすばらしかったです!
柔らかな表情と口調、見事なクネクネ感は、どこから見てもおネエ系でした。
それからミルクの恋人・スコットが超オットコ前!
ゲイ・ムーブメントのシンボル的存在となり、政治活動の中に飛び込んでいくミルクの背中を見つめる瞳が
切なすぎます!

男性同士のラブシーンもちょいちょいあるので、苦手な方にはおすすめできませんが…とても勉強になりました。

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2009-05-09

項羽と劉邦 司馬遼太郎(其の二)

“個”の力の限界と、項羽の敗北。

さてさて劉邦とは好対照なのが項羽です。
敵をことごとく穴埋めにしてしまう残虐さと身内に対する深い愛情を併せ持つ、何とも矛盾した性格の持ち主ですが、
その鬼神のような強さで兵士たちから畏怖されているカリスマ。
“虚”である劉邦に対して、項羽の中には覇気が充溢しており、いかにも大国を治める皇帝にふさわしいように見えます。
しかし、自分の強さに対する自信故に、人事や外交に関しては無防備なほどに無頓着。
彼の参謀を務めていた范増は、内心でこう呟きます。

(項羽という男は、おのれ一個の力量を恃みすぎ、配下の諸将をうまく御そうとしない男らしい)

完全にワンマン経営だったわけですね。
しかもその欠陥は時を経るごとに表面化し、社員たちはワンマン社長を崇拝するばかりで、
彼に意見する者がいなくなってしまいます。あらら。

その点、劉邦は言われたい放題。
なぜこうも負けるのか、天運がないのかと嘆けば、
「負けるのは陛下がお弱いからです。天運と何の関係もありません」とバッサリ斬られ、
広武山に籠って戦うことを提案すれば、
「陛下にしてはお珍しく、良い案を思いつかれましたな」と笑われる始末。それでいいのか!?
しかし皇帝となって後、自分が天下を取って項羽が天下を失った理由として、劉邦はこう述べたそうな。

「策を帷幕の中に巡らし、勝ちを千里の外に決することではわしは張良に及ばない。
民を慰撫して補給を途絶えさせず、民を安心させることではわしは蕭何に及ばない。
軍を率いて戦いに勝つことではわしは韓信に及ばない。
わしはこの三人の英傑を見事に使いこなした。
しかし項羽は范増一人すら使いこなせかった。これがわしが天下を取った理由だ」(Wikipediaより)

これって現代の組織運営にも通じますよね。
本書が会社経営者によく読まれているというのも分かる気がします。


密やかに仕組まれる智謀知略、何千何万という兵がぶつかりあう戦など、
歴史小説としてはもちろん、エンターテインメントとしても十分に楽しめる一冊です。


項羽と劉邦〈中〉 (新潮文庫)項羽と劉邦〈中〉 (新潮文庫)
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項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)
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2009-05-07

項羽と劉邦 司馬遼太郎(其の一)

天下を統一せしめるのは、武勇か人望か。

田舎町のやくざ者でしかなかった劉邦と、亡楚の将軍家の血を引く猛将・項羽。
天下を巡る二人の戦いを描いた歴史小説。

秦の滅亡後、混乱する大国を再び統一し、漢を興した人物ですもの。
一体どんなヒーローが描かれているのかと思いきや…えええええ。
何だかとっても頼りない感じのおっさんじゃありませんか。
自慢できるものといえば、見事な面構えと美髯だけ。
誤って傷つけてしまった子分を置いて逃げたり、敗走する途中に自分の子供たちを車から突き落としたり、
項羽軍との戦いを恐れて「誰か俺に代わりたいという者はいないのか」と喚いたりする。

そんな劉邦の、唯一にして無二の武器が“可愛げ”。
なぜだかとっても愛され系の劉邦の元には、彼のためなら喜んで自分の命を投げ出せる夏候嬰や
紀信のような男たちが争って馳せ参じます。
そして文においては蕭何、武においては韓信や張良などの優秀な臣下たちが彼を支えてくれるわけです。
不思議ですなぁ。
この辺り、何だか『燃えよ剣』の近藤勇や北方版『水滸伝』の宋江を思わせました。
司馬翁が彼を評して曰く。

劉邦はただ
「おのれの能くせざるところは、人にまかせる」
という一事だけで、回転してきた。劉邦は、土俗人ならたれでも持っている利害得失の勘定能力を
そなえていたが、しかしそのことは奥に秘めて露にせず、その実態はつねに空気を大きな袋でつつんだように虚であった。

劉邦自身は虚、つまりからっぽであると。その虚を埋めるべく、優秀な人材が集まるというわけです。
彼自身の能力というよりも、能力を持ったものを引き寄せ、使いこなす能力に富んでいたといえましょう。
しかも彼自身、そのことをはっきりと自覚していたんですねぇ。
劉邦は、臣下たちの意見を素直に聞き、まかせると決めたら全てまかせてしまう。
そうすることで、臣下たちは命令されて動くのではなく、それぞれの判断で活き活きと動くようになるのです。
うーん、これって、なかなか出来ないことではないでしょうか。
プロジェクトを丸ごと部下に任せ、ついつい口出ししたくなるのを我慢して、静かに見守るって結構大変なことですよねぇ。
これが“器”ってやつなのかしら。



・・・なんだか長くなりそうなので、続く。


項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)
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2009-05-03

4月読了本

鴨川ホルモー (角川文庫)』万城目学
謎の競技(?)「ホルモー」を巡る阿鼻叫喚を描いた、青春ファンタジー小説。
式神、とか鬼、とか聞くと俄然テンションが上がるM。このテの設定は決して嫌いではありません。
いやむしろ大好物なのですが…どうにも乗り切れませんでした。
京都を舞台にした不思議小説ということで、どうしても森見登美彦氏とカブってしまうんですね。
妄想の荒唐無稽さ、チャーミングさ、それらを端正な文章でさらりと書き上げる筆力は、
森見氏の方が勝っているように思え…。
ストーリーもキャラクター設定も、どこか物足りなく感じてしまいました。

その他
『イニシエーション・ラブ』乾くるみ
『グラスホッパー』伊坂幸太郎
『項羽と劉邦(上・中)』司馬遼太郎


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本読み人M

Author:本読み人M
8割方活字でできています。
ミステリや時代モノといった
エンターテインメント小説が大好物。
摂取した活字の感想を
吐き出して参ります。

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